新規PPARαモジュレーター(SPPARMα) K-877のマウスとヒト肝臓のトランスクリプトーム解析
Raza-Iqbal S, Tanaka T, Anai M, Inagaki T, Matsumura Y, Ikeda K, Taguchi A, Gonzalez FJ, Sakai J, Kodama T.
Transcriptome Analysis of K-877 (a Novel Selective PPARα Modulator (SPPARMα))-Regulated Genes in Primary Human Hepatocytes and the Mouse Liver.
J Atheroscler Thromb. 22, 754-772, 2015. [DOI] [PubMed]
脂肪酸およびその誘導体をリガンドとして遺伝子発現を制御する核内受容体Peroxisome proliferator-activated receptor-α (PPARα)の活性化薬として知られているフィブラート系脂質異常症改善薬は強力な血清トリグリセリド低下作用とHDL-コレステロール上昇作用を併せ持つ薬剤として使用されているが、血清トランスアミナーゼ、ホモシステイン、クレアチンの上昇などの臨床検査値異常が認められることがあります。そのため、ほとんどのフィブラート系の薬剤は肝機能や腎機能異常を有する患者への投与は禁忌とされています。本研究では、フィブラート系薬剤の主作用となる脂質改善効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えることをコンセプトとした次世代の選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)として開発されたK-877について、ヒト初代培養肝細胞およびマウス肝臓におけるトランスクリプトーム解析を行いました。
まず、転写活性化アッセイを行い、K-877が既存のフィブラート系薬剤のフェノフィブレートよりも低濃度かつ選択的にPPARαを活性化することを明らかにしました。次に、トランスクリプトーム解析の結果からK-877がヒトおよびマウス肝臓の脂肪酸β酸化系酵素遺伝子を誘導すること、これらの遺伝子発現に及ぼす影響がPPARα欠損マウスでは認められないことを明らかにしました。また、K-877はマウスの肝臓ではペルオキシソーム増殖に関わる遺伝子発現を誘導しましたが、この作用はヒト肝臓では認められないことから、臨床用量でのK-877の使用ではヒトではペルオキシソーム増殖および肝毒性はないと考えられました。興味深いことに、K-877はVLDLR, FGF21, ABCA1, MBL2, ENPEPといった糖・脂質代謝に関わる遺伝子の発現を誘導することを見いだしましたが、これらの遺伝子発現への影響はヒトとマウス間またはK-877と既存のフィブラート間で応答性が異なることを見いだしました。以上のことから、K-877は新規SPPARMαとして働き、副作用が少なく、かつ臨床的にも有用な効果を有する薬剤である可能性を報告致しました。
本薬剤は現在国内にて臨床試験が進められており、副作用の発現率が低く、かつ良好な血清脂質改善効果を示す薬剤として期待されています。