東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野 酒井研究室

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酢酸を活性化する酵素(アセチルCoA合成酵素)欠損マウスは絶食時に体温、持久力が低下する。 ―酢酸が絶食時の燃料になることを発見―

2009年02月01日 00時00分00秒 (#116)

Sakakibara I, Fujino T, Ishii M, Tanaka T, Shimosawa T, Miura S, Zhang W, Tokutake Y, Yamamoto J, Awano M, Iwasaki S, Motoike T, Okamura M, Inagaki T, Kita K, Ezaki O, Naito M, Kuwaki T, Chohnan S, Yamamoto TT, Hammer RE, Kodama T, Yanagisawa M, Sakai J.*(* corresponding author).
Fasting-induced hypothermia and reduced energy production in mice lacking acetyl-CoA synthetase 2.
Cell Metab, 9, 191-202, 2009. [DOI] [PubMed]

我々は日常の調理で酢を使いますが、体内(肝臓)でも合成、血中に放出されています。これまで脂肪酸やケトン体が、絶食・飢餓といった食事を摂れない状態、あるいはインスリンの利用が極端に減少した糖尿病状態では、ブドウ糖に代わり、エネルギーとして利用されることが生化学・内科学の教科書的知識として知られていました。今般の発見は日常的に用いられる酢酸が、ブドウ糖の吸収・利用が極端に低下した状態で、最終的なエネルギー源として必須であることを示した基本となる事例です。

Acetyl-CoA synthetase 2 (AceCS2)は酢酸をアセチル-CoAという物質に活性化する酵素です。クエン酸回路ではこのアセチル-CoAがATP(アデノシン3リン酸)や電子伝達系で用いられるNADHなどを生じ、効率の良いエネルギー産生を可能としております。AceCS2を欠損した動物では絶食時に、このATPやNADHが欠乏し、燃料不足から低体温や持久運動の低下を来します。

こと、生後間もない授乳期には(糖分が少ないなど母親のミルクの成分に起因すると考えられますが)、酢酸の利用はことのほか重要で、AceCS2を欠損し、酢酸を利用できない動物は授乳期には成長に障害を来します。離乳後、通常の食事を摂るようになると成長は元に戻ります。しかし離乳後もブドウ糖の少ない食事をあたえると、酢酸を利用できない動物の場合、50%が低体温、低血糖となり死亡してしまいます。

一方、現代の飽食時代にあっては、肥満・メタボリック症候群が社会的にも問題になっています。米国では近年、低インスリンダイエット(低炭水化物ダイエット、いわゆるアトキンズダイエット)が、低脂肪食にかわる効果的ダイエットとしてブームになっています。

今回の、酢酸を活性化する酵素を欠損したマウスでは、低インスリンダイエットによって体重増加がさらに抑えられることも明らかとなり、このダイエット法においては酢酸を活性化する阻害剤が、今後、抗肥満薬として効果を上げる可能性が示唆されました。

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