東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野 酒井研究室

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脂肪細胞のマスターレギュレーターPPARγがエピゲノム修飾酵素の遺伝子発現を制御することを介して脂肪細胞への分化を制御する

2009年07月01日 00時00分00秒 (#49)

Wakabayashi K, Okamura M, Tsutsumi S, Nishikawa NS, Tanaka T, Sakakibara I, Kitakami J, Ihara S, Hashimoto Y, Hamakubo T, Kodama T, Aburatani H, Sakai J*(* corresponding author).
The peroxisome proliferator-activated receptor gamma/retinoid X receptor alpha heterodimer targets the histone modification enzyme PR-Set7/Setd8 gene and regulates adipogenesis through a positive feedback loop.
Mol Cell Biol. 29, 3544-3555, 2009. [DOI] [PubMed]

肥満を始めとする生活習慣病は多遺伝子疾患であり、環境因子との関わりもまた大きな要因です。こと、生活習慣病は環境により体質が変わるという考え方に基づいています。

これまでの研究では遺伝子の塩基配列の変異が病気のなりやすさを決定すると考えられて研究がすすめられてきましたが、ゲノム解読からこうした考え方に疑問がうまれてきています。特にエピゲノムという考え方により、栄養が体質を変えるという新たな考え方がもたらされつつあります。

我々ヒトの細胞では、DNAは8分子のヒストンタンパク質にまきついて、ヌクレオソームという構造をつくります。ヒストンはアミノ酸がメチル化されるなどの修飾をうけ、複製の時にこのヒストン修飾も複製されます。ヒストンH3の9番目のアミノ酸リジン(H3K9と略される)がメチル化されるとサイレンシングに働き、ヒストンH4の20番目のリジン(H4K20と略される)のメチル化は、活性化にもサイレンシングにも働きます。 Peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPARγ)は核内受容体型のリガンド応答性の転写因子であり、肥満にともなうインスリン抵抗性の改善薬であるチアゾリジン誘導体(TZD)の分子標的です。

核内受容体PPARγの標的遺伝子のゲノムワイド解析(ChIP on Chip解析)から、エピゲノムを制御する標的遺伝子の探索を行いました。その結果、PPARγによってヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)のメチル化酵素は転写レベルで負に、ヒストンH4の20番目のリジン(H4K20)のモノメチル化酵素Setd8は正に制御される標的遺伝子であることを見いだしました。 そして、H3K9トリメチル修飾は脂肪細胞分化抑制に、そしてH4K20モノメチル化は分化促進に働くことを明らかにしました。

このようにしてPPARγはこれらヒストン修飾酵素遺伝子の発現を制御し、さらにこれを介して脂肪細胞の分化をエピゲノムの角度から制御する新たな経路があることを報告しました。

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