東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野 酒井研究室

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稲垣 毅 特任准教授が平成24年度岡本研究奨励賞(成人血管病研究財団)を受賞しました(2012年10月22日、京都)!

2012年10月22日 17時13分00秒 (#146)

1999年に信州大学医学部卒業の後、老年医学講座 橋爪潔志教授研究室に入局。ここで、核内受容体であるレチノイン酸受容体(RAR)の研究を行った。レチノイン酸応答配列に結合するINAG1と命名した遺伝子を新規にクローニングし(JBC 2003)、INAG1が、免疫、血球系細胞において、血清応答配列や活性化蛋白質1(AP-1) を介するシグナル伝達に関与することを示した。INAG1は、T cellにおける細胞接着、極性化、遊走に関わることがその後の研究で示された。

    この研究がきっかけとなり、2002年にサウスウエスタンメディカルセンター薬理学講座のSteven Kliewer & David Mangelsdorf教授のもとに留学。ここでは細胞外刺激・外的環境の変化がどのようにして、細胞応答を誘導するか、核内受容体との関連で研究した。消化酵素である胆汁酸は食事などの刺激でその量は正確に制御される必要がある。氏は胆汁酸のセンサーである核内受容体FXRがFibroblast growth factor 15 (FGF15)遺伝子を標的とすること、そしてFGF15が胆汁酸生合成を制御する新たなホルモンであることを発見し(Cell Met. 2005)、さらにFXRが腸管内免疫応答に関与する遺伝子発現を制御するという新たな知見を示した(PNAS 2006)。氏はさらに、代謝で重要な絶食・飢餓に対する応答を解析。絶食・飢餓の刺激時に核内受容体PPARaは、FGF21の転写発現を制御し、これによって誘導されるFGF21が絶食時の糖新生・脂肪異化作用に関与すること、さらにFGF21がマウスの冬眠状態(Torpor) を誘導するという新たな生理作用を発見した(Cell Met. 2007)。加えて、絶食時における成長ホルモンシグナル抑制に、FGF21を介した機構を同定した (Cell Met. 2008)。以上の研究は、細胞外からの刺激を核内受容体が感知し、FGFという必要な液性因子を発現制御することで、個体レベルでの応答を制御するという「核内受容体-FGF axis」という新たなる概念を提示するものであった。この概念はサイエンス誌などでもレビューされ世界的に高い評価を受けている。

    2008年に東京大学先端科学技術研究センターに着任。当研究室においては、これまでの核内受容体研究に加え、細胞外刺激・外的環境が、細胞内シグナルを介して、どのようにして細胞の記憶としてゲノムに化学修飾され、エピゲノムとして記録されていくか、という研究に発展させた。この結果、3番目のヒストンの9番目のリジン(H3K9と略す)の脱メチル化異常がマウスにおいて肥満・インスリン抵抗性を引き起こすことを発見した(Genes to Cells 2009)。この結果は、クロマチンの構造変化が肥満・インスリン抵抗性を引きおこすという初めての報告となり、今後、エピゲノムと代謝という新たな分野としての発展が期待されている。

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