東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野 酒井研究室

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動脈硬化Update 2015 で最優秀賞!「環境因子に応答したヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aによる熱産生関連遺伝子制御メカニズムの解明」

2015年09月05日 00時18分00秒 (#191)

阿部陽平先生、日本心臓財団・アステラス「動脈硬化 Update」研究助成で、最優秀賞を獲得しました。 一次選考(書類)の結果、3演題が選出され、9月5日にシェラトン都ホテル東京 (港区白金台)で二次選考会(口演発表)がなされました。阿部さんが見事、一等の最優秀賞を獲得しました。

環境因子に応答したヒストン脱メチル化酵素 JMJD1A による熱産生関連遺伝子制御メカニズムの解明

メタボリックシンドロームは、心筋梗塞や脳卒中などの血管イベントのリスクを増大させることから、メタボリックシンドロームの予防・治療の重要性が指摘されている。メタボリックシンドロームの上流には、肥満が成因基盤として存在することが認識され、生活習慣の改善に加え、いかに脂肪の燃焼 (エネルギー消費) を促進させるかが重要な課題である。また近年の研究から、生体が、ある環境因子に曝露されると、エピゲノム (DNA 塩基配列に依存しない DNA やヒストンのメチル化などの後天的な遺伝子修飾) のダイナミックな変化が生じ、これが将来の疾患のなりやすさや体質を決定付けることが明らかになりつつある。

本研究では、エピゲノム修飾酵素の欠損マウスの解析から、メタボリックシンドロームの病態形成に関与するヒストン H3 の 9 番目リジン残基の脱メチル化酵素 JMJD1A に着目した。JMJD1A 欠損マウスは、肥満や糖・脂質代謝異常などメタボリックシンドロームに特徴的な症状を呈し、寒冷環境下では体温が著しく低下することが示された。これより、JMJD1A は生体内でエネルギー消費・熱産生に重要な役割を担い、メタボリックシンドロームに対する創薬の標的になり得ることが期待される。そこで、申請者は、JMJD1A による環境因子感知機構からエネルギー消費・熱産生関連遺伝子の転写制御までの詳細なメカニズムの解明を行った。その結果、生体が急速な寒冷刺激を感知すると、褐色脂肪細胞では b-アドレナリンシグナルによる JMJD1A のリン酸化がスイッチとなって、転写因子 PPARg およびクロマチン再構築因子 SWI/SNF とタンパク質複合体を形成し、クロマチン高次構造を変化させることで、エネルギー消費・熱産生関連遺伝子の発現が誘導されることを明らかにした。

これらの成果は、エネルギー消費・熱産生機能障害とも考えられる肥満病態の新規治療・予防法に対する重要な知見であり、将来の血管イベントのリスク軽減に大いに貢献できると考えられる。

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