東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野 酒井研究室

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膵ラ氏島に発現する転写因子SOX6はPDX1と結合し、インスリン分泌を調節する

2005年09月26日 00時00分00秒 (#21)

糖尿病発症の原因は体内でのインスリンの働きが弱まる「インスリン抵抗性」と体内のインスリン量が減少する「インスリン分泌不全」の2つであると考えられています。 インスリンはすい臓から分泌されるホルモンで、血中のブドウ糖濃度(血糖値)を下げる働きをしています。インスリンの働きが弱くなると、すい臓のβ細胞がインスリンを大量生産して働きの弱くなった分を補うことができますが、次第にβ細胞も疲労しインスリンの分泌量が減ってきます。すると血糖値が下がらなくなり、糖尿病が発症するのです。

そこで、私たちはインスリンを大量に生産させ続けることができれば、糖尿病の発症を防げるのではないかと考え、インスリン分泌増加のメカニズムの解明を試みました。 私たちは、インスリン分泌が増加したβ細胞と通常のβ細胞の遺伝子の発現量をDNAマイクロアレイにより比較することで発現変動する遺伝子を抽出し、その中からインスリン分泌に関与する遺伝子を選抜することに成功しました。その遺伝子はSOX6と呼ばれる転写因子の1種であり、インスリン分泌が増加したβ細胞において発現減少し、インスリン分泌を抑制する機能を持つことを突き止めました。SOX6はインスリン自体の発現を抑制する他に、ブドウ糖の代謝を阻害することでブドウ糖依存的なインスリン分泌を抑制することを発見しました。更に興味深いことに、SOX6は転写因子でありながらDNA結合によらず、PDX1という別の転写因子に結合しその機能を阻害することで、上述した機能を示すことがわかりました。

以上のことから、体内でインスリンの働きが弱まると、すい臓のβ細胞はSOX6遺伝子の発現を抑制することでインスリン分泌を増加させるメカニズムを持っていると推察されます。今後、SOX6の発現・機能を抑制する化合物を探索し糖尿病の治療に役立てたいと考えています。

Iguchi H, Ikeda Y, Okamura M, Tanaka T, Urashima Y, Ohguchi H, Takayasu S, Kojima N, Iwasaki S, Ohashi R, Jiang S, Hasegawa G, Ioka RX, Magoori K, Sumi K, Maejima T, Uchida A, Naito M, Osborne TF, Yanagisawa M, Yamamoto TT, Kodama T, Sakai J. SOX6 attenuates glucose stimulated insulin secretion by repressing PDX1 transcriptional activity and is down-regulated in hyperinsulinemic obese mice J Biol Chem. 2005 Sep 7

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